570.ツンデレじゃないと死ぬの?

松本裕司の母性本能が再び芽生え始めた。

「社長、奥様が恋しければメッセージを送ってみてはいかがですか?今なら中国は昼休み時間ですから、奥様の邪魔にはならないと思います」

松本裕司は我慢していたが、結局言わずにはいられなかった。

上司の冷たい視線を覚悟していたが、藤堂澄人は淡々と携帯を置いて、「いや、そこまで彼女が恋しいわけじゃない」と言った。

そう言って、また書類を手に取って読み始めた。

松本裕司:「……」

素直になれないなんて、死ぬの?ああ!死ぬの?

その時、地球の反対側の中国C市では、九条結衣が今日の処理すべき書類を置いたところで、やっと空腹を感じていた。

秘書が持ってきた昼食を見上げると、もう冷めていた。

彼女はため息をつき、お弁当を手に取った。開けた時、いつも食べているこの店の昼食を見ても、なぜか食欲が湧かなかった。

あの夜、藤堂澄人が作ってくれたシーフードヌードルが頭をよぎり、心に寂しさが込み上げてきた。

「藤田秘書」

彼女は内線を押して、秘書を呼んだ。

「九条社長、何かご用でしょうか?」

「この近くに麺屋はありますか?」

「会社の1階に一軒ありますが、お召し上がりになりますか?誰かに買いに行かせましょうか」

「いいえ、私が行きます」

会社付近のこの海鮮麺店は評判の店で、毎日食事時間以外でも満席だと言われている。

九条結衣が入った時、ちょうど一席空いていて、彼女は海鮮麺を注文した。

海鮮麺はすぐに運ばれてきた。箸を取って数口食べたが、特においしいとは感じなかった。

周りのテーブルの人々が美味しそうに食べているのを見て、九条結衣は少し困惑して眉をひそめた。

自分の味覚が贅沢すぎるのだろうか?

なぜみんな人生最高の美味しさを味わっているような表情をしているのだろう?

思わず、あの日藤堂澄人が作ってくれた麺のことを思い出し、自然と優しい笑顔の藤堂澄人の顔が浮かんできた。

視線は脇に置いた携帯電話に向かい、手に取った。

人差し指でロックを解除したが、少し躊躇してから、また閉じた。

箸を取って適当に二口ほど食べたが、やはり食欲がなく、置いた。

ふと目を上げると、向かいに30歳前後の女性が二人、奇妙な目つきで彼女を品定めしているのが見えた。