572.実力がないのに強がるな、恥をかくだけだ

結局のところ、これらの野次馬たちの目には、九条結衣は愛人である可能性が高かった。

愛人という立場でこれほど傲慢なのは、藤堂澄人を後ろ盾にしているからに他ならない。

九条結衣は人々がどう思っているかを知っていたが、気にしなかった。自分を侮辱するのは構わないが、息子を侮辱するとは、命が惜しくないのか？

彼女は非難の目を無視し、バッグから束になった現金を取り出してその女の顔に投げつけ、見下すように言った：

「顔にニキビができて、口も臭いみたいね。かなり上気してるみたいだから、このお金で漢方茶でも買って飲みなさい。次に外出する時は何度かうがいをしてから出かけることね。口を開くたびに糞でも食べてきたのかと思われないように」

そう言って立ち去ろうとしたが、野次馬の「正義の味方」たちに止められた。

「人を殴るなんてどういうことですか？ちょっと言っただけじゃないですか？藤堂澄人さんの女だからって、人を殴っていいわけじゃないでしょう？」

ダブルスタンダードの「正義の味方」たちは、さっきその女が九条結衣を酷い言葉で侮辱していたことを完全に忘れたかのように、今や全身が「正義感」に満ち溢れていた。

九条結衣の鋭い視線が彼女を止めた数人に向けられると、その冷たく深い目つきに、思わず首を縮こませた。

認めたくはないが、この女は確かに藤堂澄人の女だけあって、たとえ愛人でも、普通の女性とは違うオーラを放っていた。

「もう殴ってしまったんだから、どうするの？」

九条結衣は両手を広げ、唇の端に皮肉な笑みを浮かべた。「ネットに投稿でもすれば？タイトルまで考えてあげるわ。『藤堂澄人の愛人が権力を笠に着て人をいじめる』なんてどう？」

九条結衣のこの開き直った態度に、人々の怒りは想像に難くなかった。

しかし現実を直視せざるを得なかった。この女は本当に手の施しようがないほど傲慢だった。

先頭に立った男は黙り込み、九条結衣を睨みつけるだけで、顔は真っ赤になっていた。

「実力もないのに出しゃばらないで。恥をかくだけよ！」

九条結衣は冷たい目で数人の男たちを見渡し、そう言い残して再び立ち去ろうとした。

その男たちは九条結衣の言葉に激昂し、もはや多くを考えることなく前に飛び出した。「待て、お前...」

「藤堂奥様！」