573.彼の妻を虐めたら、一網打尽にする

その女性は本当に藤堂澄人の本当の奥様だったのだ。

皆が呆然としていた。九条結衣に殴られた女性も呆然としていた。

「部長、奥様。」

傍らで暫く呆然としていた若い男性が、今になって我に返り、慌てて挨拶をした。

金田夫人は彼を見て、先ほど入店前の光景を思い出し、急に眉をひそめた。「田中部長、先ほどなぜ藤堂奥様を止めていたのですか?」

その田中という男性は、先ほど九条結衣を止めて出て行かせず、正義感に溢れた態度で九条結衣が人を殴ったと指摘した男だった。

金田夫人の質問を聞いて、顔色が一気に青ざめ、口を開いて説明しようとしたが、どう切り出せばいいのか分からなかった。

むしろ傍らで見物だけしていた数人の客が、我慢できずに口を開いた。「先ほどこの女性が藤堂奥様を侮辱して、愛人だと言い、息子は認知されていない私生児だと罵ったので、藤堂奥様に殴られたんです。この田中さんが見かねて...」

その人は面白がって事を大きくしようとするかのように、具体的な経緯をもう一度詳しく説明した。

金田部長の表情が次第に暗くなっていくのを見て、田中という男性の顔色もますます青ざめていった。「部長、私は...知らなかったんです...」

「お前のような役立たずが。俺がどれだけ苦労して藤堂澄人とつながりを持てたと思ってるんだ。お前がここでヒーロー気取りで俺の仕事を台無しにしやがって。さっさと会社から出て行け。」

「部長、わざとじゃなかったんです、私は...」

「わざとだろうがなかろうが知ったことか。藤堂澄人があの奥様を神様のように大事にしているのを知らないのか。もし俺の会社の人間が他人と組んで彼の奥様をいじめたと知ったら、俺の会社はどうなると思う?出て行け、さっさと出て行け!」

藤堂澄人のあの理不尽なまでに身内を庇う様子を思い出し、ただ奥様が誰かのせいで転んだだけで、その会社を丸ごと潰してしまうような悪魔のような男を、自分が挑発できるわけがない。

できるはずがない!

「部長...」

「出て行け!」

田中という男性は今回の英雄気取りが終わりを迎えたことを悟り、乾いた唇を噛みしめ、青ざめた顔で立ち去った。

金田夫人は金田部長の表情が良くないのを見て、彼の肩を叩きながら慰めた。「あまり心配しないで。あの藤堂奥様は理不尽な人には見えなかったわ。」