その女性は本当に藤堂澄人の本当の奥様だったのだ。
皆が呆然としていた。九条結衣に殴られた女性も呆然としていた。
「部長、奥様。」
傍らで暫く呆然としていた若い男性が、今になって我に返り、慌てて挨拶をした。
金田夫人は彼を見て、先ほど入店前の光景を思い出し、急に眉をひそめた。「田中部長、先ほどなぜ藤堂奥様を止めていたのですか?」
その田中という男性は、先ほど九条結衣を止めて出て行かせず、正義感に溢れた態度で九条結衣が人を殴ったと指摘した男だった。
金田夫人の質問を聞いて、顔色が一気に青ざめ、口を開いて説明しようとしたが、どう切り出せばいいのか分からなかった。
むしろ傍らで見物だけしていた数人の客が、我慢できずに口を開いた。「先ほどこの女性が藤堂奥様を侮辱して、愛人だと言い、息子は認知されていない私生児だと罵ったので、藤堂奥様に殴られたんです。この田中さんが見かねて...」