580.どの文字が「夫」に打ち間違えられるの

言葉が落ちた瞬間、九条結衣は不味いと感じ、逃げようとしたが、藤堂澄人が先に彼女の腰を掴み、頭を下げてキスをした。

九条結衣がソファの肘掛けに寄りかかっていると、藤堂澄人が近づいてきた時、彼女の体は本能的に後ろに反り、夫婦二人は重心を失い、ソファに倒れ込んでしまった。

藤堂澄人は九条結衣を押しつぶさないように、倒れる時にソファのクッションに両腕をついて、二人は上下の体勢で向かい合っていた。

視線が偶然、九条結衣が先ほどソファに置いたままのスマートフォンに触れた。画面には藤堂澄人とのLINEの会話が開かれていた。

入力欄には、「だんな様」という二文字が打ち込まれていた。

おそらく彼が鍵を開ける音で中断されたため、送信する前だったのだろう。

藤堂澄人の顔に浮かぶ笑みが深くなった。九条結衣は彼の視線に気づき、振り向いて見ると、先ほど自分が横に置いたスマートフォンの画面が光っていた。