言葉が落ちた瞬間、九条結衣は不味いと感じ、逃げようとしたが、藤堂澄人が先に彼女の腰を掴み、頭を下げてキスをした。
九条結衣がソファの肘掛けに寄りかかっていると、藤堂澄人が近づいてきた時、彼女の体は本能的に後ろに反り、夫婦二人は重心を失い、ソファに倒れ込んでしまった。
藤堂澄人は九条結衣を押しつぶさないように、倒れる時にソファのクッションに両腕をついて、二人は上下の体勢で向かい合っていた。
視線が偶然、九条結衣が先ほどソファに置いたままのスマートフォンに触れた。画面には藤堂澄人とのLINEの会話が開かれていた。
入力欄には、「だんな様」という二文字が打ち込まれていた。
おそらく彼が鍵を開ける音で中断されたため、送信する前だったのだろう。
藤堂澄人の顔に浮かぶ笑みが深くなった。九条結衣は彼の視線に気づき、振り向いて見ると、先ほど自分が横に置いたスマートフォンの画面が光っていた。
会話画面には「だんな様」という文字が際立って見えた。九条結衣の顔は一瞬で真っ赤になった。
当時どうしてそんな文字を打ったのか分からなかったが、送信しなかっただけでも良かったのに、まさか藤堂澄人に見られてしまうとは。
急いでスマートフォンを取ろうとしたが、彼女より早く誰かが奪い取ってしまった。
「だんな様?」
藤堂澄人は上機嫌で眉を上げ、スマートフォンを手に得意げに振った。
九条結衣が怒って奪い取ろうとした時、彼は身を屈めて彼女の頬にキスをし、彼女の怒りの眼差しの中で彼女を放した。
「だんな様に何を言いたかったの?今だんな様は帰ってきたから、直接言えばいい。メッセージを送る必要はないよ。」
彼は後悔した。もう少し遅く帰ってきていれば、妻が何を言いたかったのか見られたのに。
九条結衣は顔を曇らせてスマートフォンを奪い返し、「違うの、打ち間違えただけ」と言った。
彼女は藤堂澄人の視線を避けながら、彼の下から抜け出そうとしたが、藤堂澄人はそのまま彼女を放すつもりはなく、しつこく言い続けた。
「どんな文字が『だんな様』に打ち間違えられるの?」
「スマホを返して。」
「返さない。まず答えて、何を言いたかったの?」
九条結衣は彼のしつこい態度に手を焼き、話題を変えることにした。「長時間寝てないって言ってたじゃない?早く寝なさいよ。何をふざけてるの?」