九条結衣の体は、突然硬直した。馴染みのある声、馴染みのある気配が、一瞬で結衣の五臓六腑に突き刺さった。
彼女は目の前の男を見上げた。月明かりの下で、彼の顔が見えた。
無精ひげだらけの顔、充血した目、長時間の徹夜で枯れた声……
元々端正だった顔立ちに、今は少し疲れと野性味が混ざっていた。
「お帰り、私の妻」
その瞬間、結衣の心を包んでいた恐怖が一気に消え去り、目が一気に赤くなった。
彼の胸を強く叩きながら、「私を死ぬほど驚かせたかったの?」
九条初を起こさないように、結衣は大きな声を出せず、その抑えた声には、より濃い不満が込められていた。
藤堂澄人は笑いながら彼女を抱きしめ、顔を彼女の肩に埋めて行ったり来たりと擦りつけた。「ごめん、寝てると思って、起こしたくなかったんだ」