584.大奥様が倒れた

九条結衣は藤堂澄人がわざと知らないふりをしているのを知っていたが、反論のしようがなかった。

反論すれば、藤堂澄人はきっと彼女の考えが不健全で、頭の中がそういうことばかりだと言うに違いない。

結局、損をするのは彼女自身だった。

最近、彼は口が達者になっていて、彼女は言い負かされてしまう。

無言で白眼を向けると、彼女はその話題を避けた。

藤堂澄人は近づいてきて、優しく囁いた。「怒らないで、朝ごはん作ったから、食べに来て」

彼は九条結衣の小指を引っ掛け、少し挑発するように彼女の手のひらをくすぐった。その結果、九条結衣に睨まれ、振り払われてしまった。

朝食を済ませると、藤堂澄人は進んで息子を学校に送り、その後、九条結衣を会社まで送った。

会社への道中、藤堂澄人がここで随分と時間を費やしていることを思い出し、藤堂グループは彼なしでは立ち行かないだろうと考え、尋ねた。