「ん?」
植田涼は振り向いて藤堂澄人を見た。
お婆様と比べて、藤堂澄人の態度は冷たかった。「藤堂瞳がまだ改心しないなら、我慢できないなら離婚すればいい。私の妹を躾けられなかったのは私の責任だ。これ以上お前を苦しめる理由はない」
その言葉を聞いて、植田涼は軽く笑った。「お兄さん、どう言っても私の妻ですよ。私の前で離婚を勧めるなんて、少し酷くないですか」
彼は結局、藤堂澄人の言葉を気にせず、藤堂家を後にした。
植田涼の背中を見つめながら、お婆様は溜息をついた。「瞳が大切にしてくれることを願うわ。域を失えば、一生涯域より良い男性は見つからないでしょう」
藤堂澄人はお婆様の言葉に返事をしなかった。藤堂瞳については、幼い頃から両親がいなかったため、この妹を甘やかし続けてきた。
彼は藤堂瞳に対して、できる限りのことをしてきたと言える。
しかし藤堂瞳は、この兄をどう報いたのか?
兄の結婚生活を何度も壊そうとし、何度も警告したにもかかわらず、義姉に対して悪態をつき続け、兄の気持ちを全く考えなかった。
そうであるなら、兄としてこの妹を認めないのも仕方がない。
一方、九条結衣は元々藤堂瞳が嫌いだったので、藤堂瞳に関することには一切関わらないようにしていた。
藤堂瞳が彼女に関わってこなければそれでよかったが、もし死にたいほど挑発してくるなら、容赦はしない。
そう考えながら、九条結衣は物思わしげに藤堂澄人を見やったが、ちょうど彼の視線と合ってしまった。
罪悪感からか、慌てて視線を逸らし、黙々と食事を続けた。
植田涼は藤堂家にそれほど長居せず、藤堂瞳の罵声が聞こえなくなったので、彼女が冷静になって外で待っているのだろうと思った。
しかし外に出てみると、藤堂家の門前には既に植田家の車の姿はなく、表情は複雑になった。
ずっと外で待機していた執事は、植田涼を哀れむような目で見ていた。
近寄って、小声で言った。「旦那様、お嬢様は数分前に出発されました。お車を手配してお送りいたしましょうか」
「ああ」
植田涼は沈んだ表情で返事をし、心の中で失望とともにため息をついた。
夕食後、九条初坊ちゃんは自ら進んでひいお婆様と話をすると言い出し、お婆様は眠気も忘れて喜んでいた。