589.物を見て人を思う

「はい、はい、大奥様、ゆっくりお休みになってくださいね。九条初はお目覚めになってからまたお会いに参ります」

「ええ、ええ……」

老夫人が眠りについた後、夫婦は九条初を連れて部屋を出た。

藤堂澄人の主寝室は普段から掃除が行き届いていたので、特別な準備は必要なかった。

ただ、九条初のことが問題だった。

「旦那様、坊ちゃまは別のお部屋をご用意いたしましょうか、それとも旦那様と奥様と同じお部屋でよろしいでしょうか」

「パパとママと一緒の部屋はいやだ」

藤堂澄人夫妻が口を開く前に、九条初が先に言い出した。

「山本叔母さん、こぶたが言ってたの。パパとママと一緒に寝たら妹が生まれないって。別の部屋を用意してください」

この生意気な坊や、本当に思ったことをすぐ口にする。

特に何でも知っているこぶたが毎日妹の作り方について話し合うものだから、九条初くんは妹のために一生懸命パパとママを引き合わせようとしているのだ。

藤堂社長は元々息子という邪魔者が同じ部屋にいることを望んでいなかったので、息子が自ら一緒に住みたくないと言い出したのを聞いて、願ったり叶ったりだった。

九条初が考えを変える前に、九条結衣が反対する前に、すぐさま山本叔母さんに言った:

「九条初の言う通りにしてください」

「かしこまりました、旦那様。すぐに手配いたします」

山本叔母さんは笑いを押し殺しながら、頷いて承知した。

坊ちゃまは本当に旦那様の助っ人で、坊ちゃまの言うこぶたくんもきっと素晴らしい子供に違いない。

もしかしたら、すぐに旦那様と奥様が大奥様にお孫さんをプレゼントできるかもしれない。

それはきっとこの世で一番幸せなお姫様になるに違いない。

普段から九条結衣は息子のこういった無邪気な発言で何度も顔を真っ赤にしていたが、今回はこの生意気な子が山本叔母さんの前でまた妹催促作戦を始めたので、九条結衣は地面に穴があったら入りたいくらい恥ずかしかった。

「息子、山本叔母さんについて行きなさい。叔母さんがあなたの部屋に案内してくれるわ」

藤堂澄人は息子が考えを変える前に、すぐに彼を追い払おうとした。

九条初くんは自分がパパの心の中でそんなに歓迎されていない存在だとは思いもよらず、すぐに純真に頷いて承知した。

山本叔母さんの後ろについて、嬉しそうに階下へ降りて行った。