620.奥様は薬局へ行った

写真の角度から見ると、盗撮されたものだと思われる。

これは……彼女じゃないか?

彼女はこの写真が撮られた場所を覚えている。

あの時、彼女は14歳で、クラスメートと一緒に街頭でボランティア活動をしていた。どうして……撮られたのだろう?

藤堂澄人のオフィスで、彼女が誤ってこれを倒してしまった時のことを思い出した。藤堂澄人は慌てて写真を引き出しに入れ、松本裕司のものだと言った。

あの時、藤堂澄人をそれほど慌てさせたのは、きっと彼の想い人に違いないと思った。

表面上は平静を装っていたものの、内心では少し妬ましく感じていた。

でも、あの時の彼女は藤堂澄人の元妻でしかなく、辛くても仕方がなかった。

藤堂澄人が彼女の様子がおかしいことに気づいて、なぜ急に冷たくなったのかと尋ねてきたことも覚えている。

彼は藤堂瞳の存在が彼女の機嫌を損ねたと思っていたが、実際は……これが原因だったのだろう。

九条結衣は写真の中の自分の明るい笑顔を見て、思わず笑みがこぼれた。

これは……自分に対する嫉妬?

そう考えているうちに、九条結衣の目の中の笑みがさらに大きくなった。

写真を元の場所に戻し、藤堂澄人のパソコンの横にあったペンを手に取って、自分の席に戻った。

そのとき、腸が再び痛み始めた。

昨夜、夏川雫とショッピングモールで食事をしてから、お腹を壊していた。

その後もずっと鈍い痛みが続いていたが、常に痛んでいたわけではないので、気にしていなかった。

しかし朝食を少し食べたら、また痛み出した。

お腹をさすりながらトイレに行き、出てきた後も腸が時々痛んでいた。

昨日夏川雫と食べた食事を思い出し、自分だけが具合悪くなったのかどうか気になった。

今日夏川雫と一緒に病院で胃腸の検査を受けることを思い出し、急いで彼女に電話をかけた。

「え?塩田町に行ったの?今日病院で検査する約束じゃなかった?」

「……」

「わかったわ。戻ってきたら、必ず検査を受けてもらうからね。」

夏川雫との通話を終えて電話を切った後、九条結衣はまだ時々痛む腸をさすった。

藤堂澄人がまだ戻っていないのを確認して、オフィスを出た。

「奥様。」

秘書室で、山本秘書は九条結衣が出てくるのを見て、すぐに立ち上がった。