彼は焦っていなかった。いつか妻は自分を信じてくれるはずだと。
しかし、この瞬間、彼女がまた避妊薬を買いに行くことを考えると、心臓が締め付けられるような痛みを感じた。
最近、二人の関係は以前よりも良くなってきたと思っていた。彼女は口では彼の親密さを拒んでいたが、実際には一度も本当の意味で拒否したことはなかった。
むしろ、何度か彼女から積極的に近づいてきたこともあった。ようやく日の目を見たと思っていたのに……
九条結衣が戻ってきたとき、藤堂澄人はパソコンの前に座って、部下から提出された書類に目を通していた。
彼女が戻ってきたのを見て、いつもと変わらない様子で「薬は買えたか?」と尋ねた。
「うん」
九条結衣は頷いた。山本秘書が彼に薬局に行ったことを伝えているはずだと思い、特に気にしなかった。