床から天井までの窓の前に立ち、下の通りは車と人で賑わっていた。藤堂澄人の思考は少し朦朧としていた。
なぜ彼女は一言も聞かないのだろう。彼が思っていた通り、他の女性との噂なんて彼女にとってはどうでもいいことなのだろうか。
気にしていないから、聞く必要もないのだ。
そう考えると、藤堂澄人はグラスを握る手に力が入った。
あの日、彼女が言ったことを思い出す。彼は彼女が他の男性と関係を持つことに口出しできないように、彼女も彼が他の女性と一緒にいることに口出ししないと。
二人は、結局のところ、形だけの結婚に過ぎない。
いや、形だけの結婚にすらなっていない!二人はまだ婚姻届も出していないのだから。
そう思うと、藤堂澄人は自嘲的に笑った。心の中の苦さは、口に含んだ酒よりも何倍も強かった。