634.彼女が私を望まなかった、私が彼女を望まなかったのではない

身を屈めて携帯を拾い上げ、自分の恥ずかしさを隠すかのように、顔を冷たくして言った。「来たなら来たで、そんなに喜んでどうしたんだ?」

松本裕司「……」

ふん!あなたは嬉しくないの?嬉しくないなら、なぜ携帯を床に落としたの?

松本裕司は心の中でしか反論できず、表面上は真面目な顔で言った。「特にご用がないようでしたら、私は先に失礼させていただきます」

そう言って、彼は部屋を出て行った。社長の顔に浮かぶ抑えきれない笑みを見なかったふりをして。

ふん!気取っているな。

奥様が来たと聞いた途端、背筋をピンと伸ばしたくせに。

九条結衣は最上階まで上がっていった。最上階の社員たちは彼女を見ると、救世主でも見るかのように挨拶をしてきた。

九条結衣はそれぞれに頷きながら、社長室の前を通り過ぎ、廊下の突き当たりにある法務顧問室へと向かった。