635.やばい、終わった

九条結衣が後半を言い終えた時、怒りの口調に皮肉が混ざっていた。

この世の中には、白石七海より身分の高い人なんていくらでもいる。白石七海なんて何者でもない!

母親が再び夏川雫に嫌がらせをしたことについて、田中行は既に藤堂澄人から聞いていた。

彼は何度も母親に夏川雫を標的にするのを止めるよう警告していたが、明らかに九条結衣の怒りから察するに、母親が夏川雫にしたことは、法律事務所への嫌がらせよりもひどいものだったようだ。

「分かりました」

しばらくして、田中行は重々しい声でそう答えた。

彼は九条結衣に多くを語ろうとも、約束しようともしなかった。

夏川雫との関係も、これで終わりにできると思っていた。もう関わることはないと。

しかしあの夜は、まるで運命が彼を弄ぶかのように、自分が諦めようとした女性と、再び絡み合うことになった。

でも夏川雫は彼よりもずっと割り切っていた。服を脱いでベッドに入り、服を着て立ち去る。それはもう、きっぱりとしたものだった。

三年前と同じように、彼女は「別れよう」というメールを一通送っただけで、彼との全てを断ち切り、さっさと立ち去った。直接会って話すことさえ、時間の無駄だと思っているかのように。

ふん!何様のつもり?

田中行は自分が夏川雫に対して何一つ悪いことをしていないと自負していた。なのに彼女は、なぜ彼を誘惑しておいて、そんなにも平気で傷つけることができるのか。

九条結衣は元々田中行に文句を言いに来たのだが、彼の顔に一瞬よぎった傷ついた表情を見て、言おうとしていた多くの言葉を飲み込んだ。

最後に、小さな声でこう言った。「とにかく、雫と一緒になるにならないにかかわらず、もう母親に雫を困らせないでください」

そう言って、立ち去った。

夏川雫の病気と、彼女のお腹の子供のことを考えると、九条結衣の眉はまた寄せられた。

彼女は今でも、子供のことを田中行に告げるべきかどうか分からなかった。

でも、告げたとして?

子供を産むことができるの?

田中行が子供の存在を知ったら、雫をどう扱うだろうか?

雫はプライドが高く、強い性格の持ち主だ。子供を理由に田中行と関係を持つことも、田中家に嫁ぐことも望んでいないはずだ。