638.ママは家で食事をしない

彼は九条結衣が渡辺拓馬と並んでカフェから出てきて、病院の方向へ向かって歩きながら話をしているのを見た。

九条結衣が渡辺拓馬と一緒に病院の玄関に入っていくのを見ていると、藤堂澄人の表情は霜が降りたように冷たくなった。

九条結衣が病院に戻ったとき、夏川雫はちょうど目を覚ましたところだった。

「雫、山下部長のところで妊娠中絶の手配が済んだけど、本当に…」

九条結衣は唇を噛んで、再び尋ねた。「本当に田中行に子供のことを話さないつもり?」

夏川雫の痩せた体が一瞬こわばり、その後首を振った。「いいの、話したところで何が変わるの?子供は結局下ろすことになるでしょう?」

「結衣、私は大丈夫よ、本当に。この子はそもそも来るべきじゃなかったの。今は天が私の代わりに決めてくれたのよ。悩むことなんてないわ」