おばあさまは孫のおかしな行動に笑みを浮かべた。「あなたったら、どう言っても九条初の実の父親なのよ。奥さんを大事にするのは正しいけど、自分の息子をそんなに意地悪しちゃいけないわ」
藤堂澄人はおばあさまの言葉に全く後ろめたさを感じなかったが、九条結衣が渡辺拓馬と一緒にいることを考えると、心が落ち着かなかった。
「おばあさま、帰ってくる前に中村裕司さんと食事をしてきましたから、ゆっくり召し上がってください。私は先に二階に上がります」
中村裕司はA市の市長で、おばあさまも知っている人物だったため、藤堂澄人の言葉に特に疑問を持たなかった。
「そう、じゃあ九条初がおばあさまと一緒に食事をするわね」
藤堂澄人は箸を置き、ダイニングを出ると、九条結衣がすでにスリッパに履き替え、玄関から居間の方へ歩いてくるところだった。
彼の目は九条結衣を見た瞬間、かすかに輝いたが、すぐに彼女がどこから帰ってきたのかを思い出し、その輝きは一瞬で消えてしまった。
九条結衣は昨夜のことでまだ気持ちが収まっておらず、彼が無表情で自分を見ているのを見て、相手にする気にもなれず、彼を避けてダイニングの方へ向かった。「おばあさま」
「結衣が帰ってきたのね。夕食は十分に食べたの?足りなかったら、もう少し食べなさい。今日はシェフがあなたの好きな料理ばかり作ってくれたのよ」
「ありがとうございます、おばあさま。もう十分です。先に上がらせていただきます」
「ええ、そうしなさい。あなたたち夫婦は本当に息が合っているわね。帰ってきたらすぐに二階に上がりたがるなんて」
おばあさまが意味ありげに微笑みながら言った言葉に、九条結衣の背筋が一瞬こわばった。
藤堂澄人の傍を通り過ぎる時、思わず足を止めかけたが、すぐに階段へと歩き出した。
しかしその時、手を藤堂澄人に掴まれた。彼女は振り向いて睨みつけ、振り払おうとしたが、藤堂澄人はさらに強く握った。
九条結衣は大きな物音を立ててしまうとおばあさまが心配するのを恐れ、仕方なく我慢して、藤堂澄人に手を引かれて階段を上がった。
おばあさまは二人が手を繋いで仲睦まじく上がっていく様子を見て、目を細めて微笑んだ。
部屋に戻るなり、九条結衣は力を込めて彼の手を振り払ったが、振り払った途端にまた藤堂澄人に強く掴まれてしまった。