彼女の「お兄さん」という言葉と合わせて、藤堂澄人は突然理解した。
初めて彼女の家を訪れた時、彼女は一人寂しそうにプールサイドで泣いていた。
彼は人の事に首を突っ込むタイプではなかったが、涙に濡れた彼女の顔を見て、まるで何かに導かれるように近づいていった。
涙目で自分を見つめる彼女が「お兄さん」と呼んだ時、彼の冷たい心が一瞬で溶けてしまった。
ハンカチで彼女の涙を拭き、普段は冗談など言わない彼が、初めて無理して冗談を言って彼女を笑わせようとした。
しかし、彼女は笑うどころか、ぼんやりと彼を見つめ続け、彼を困惑させた。
そればかりか、この厄介者は真面目な顔で彼に言った:「お兄さん、あなたの顔は冗談よりも魅力的です」
そんな率直な褒め言葉と、その美しい瞳で彼の顔をじっと見つめる様子、その素直さと好意が、彼女の表情にはっきりと表れていた。
普段は無表情な少年の顔を真っ赤に染めてしまった。
普段なら即座に顔をしかめて立ち去っていたはずだが、彼女の真摯な眼差しの前では、いつもの反応が出来なくなってしまい、顔をしかめて立ち去るどころか、むしろ馬鹿みたいに彼女の隣に座って、一緒に話を続けていた。
そしてまた、彼女を笑わせられない寒い冗談を言って、やっと彼女の機嫌が良くなった時に、自分もほっとした。
今、妻の目に浮かぶ笑みが深まっていくのを見て、「真面目な顔で寒い冗談を言う時が特に面白かった」という言葉は、明らかに彼を からかっているのだった。
「この恩知らずな厄介者め、まだ私をからかう気か!」
彼女の目に浮かぶ輝きを見て、藤堂澄人の目に燃える熱は更に深く濃くなり、まるで全ての深い愛情と慈しみを、直接彼女の心に焼き付けるかのようだった。
次の瞬間、藤堂澄人が口角を上げ、顔を少し下げると、九条結衣を不安にさせる光が目に宿り、低い声で言った:
「お兄さんの顔が魅力的だと思うのか?」
彼は片手を空け、九条結衣の顔に触れ、目に深まる笑みには少し意地悪な色が混じっていた。「お兄さんの魅力的なところは顔だけじゃないはずだ」
そう言いながら、身を屈め、唇に優しくキスをした。
また一度の極上の愛撫の後、九条結衣は疲れて藤堂澄人の腕の中で黙っていた。また一度、藤堂澄人に思い通りにされてしまったことを後悔し始めた。
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