641.無関心なわけじゃない

藤堂澄人のその言葉を聞いて、彼女は先日、彼が小林由香里を家まで送った後、戻ってきた時の反応を思い出した。

彼は今のように不安げで、自分が余計な世話を焼いていると思われていないか、彼女が小林由香里のことで嫉妬しないのは、自分のことを気にかけていないからではないかと尋ねてきた。

つまり、この間ずっと、彼はそう思い続けていたの?

そう考えると、九条結衣の胸に、かすかな痛みが走った。

体の横に垂らしていた手をゆっくりと上げ、彼の腰に回して抱きしめながら、小声で言った。「どうして……」

藤堂澄人の体が一瞬こわばった。

九条結衣は続けて尋ねた。「どうしてそんな風に考えるの?私たち……再婚することになったでしょう?どうして私が……あなたを拒むと思うの?」

彼女は藤堂澄人がこんな不安を抱えているとは思ってもみなかった。

藤堂澄人は九条結衣のその言葉に、一瞬体が硬直した。

大の男がこんなに取り越し苦労するなんて、面目丸つぶれだと思ったが、八年前の教訓を思い出すと、面子なんてどうでもよくなった。

それに、妻の前では、もう随分前から面子なんて捨てているのだから、今更気にすることもない。

そんな心の整理をしてから、彼は九条結衣をさらに強く抱きしめながら、くぐもった声で話し始めた。

「君は最初、再婚を承諾した時、僕に君のプライベートな感情に干渉させないって言ったし、僕が他の女性と付き合っても気にしないとも言った……」

ここまで言って、彼は一旦言葉を切り、薄い唇を一文字に結んだ。

「それで僕はいつも、君の心の中で自分は有って無くてもいい存在なんだと感じてしまう。僕が他の女性と関係を持っても君は気にしないし、もしいつか君が他の男性を好きになったら、僕のことなんて何の躊躇もなく捨ててしまうんじゃないかって……」

このような不安げな言葉が、いつも高慢な態度の藤堂澄人の口から出てくるなんて、九条結衣はしばらく驚きで反応できなかった。

まさか……彼女が再婚を承諾してから今まで、彼はずっとこんな不安を抱えながら過ごしてきたの?

九条結衣は、彼が小林由香里の件を処理して戻ってきた時、あんなに複雑で矛盾した様子で嫉妬について尋ねてきたことを、もう一度思い出した。