631.子供を……堕ろしましょう

夏川雫は頭を下げ、自分の平らな腹部を優しく撫でながら、掠れた声で「赤ちゃんはどうなの?」と尋ねた。

彼女の声は非常に落ち着いていたが、伏し目がちな表情からは感情を読み取ることができなかった。

「山下部長によると、切迫流産の兆候があるから、しばらく入院して様子を見る必要があるって。赤ちゃんが安定してから退院できるそうよ」

九条結衣は彼女に隠し事をせず、また赤ちゃんを産むかどうかの話もせずに、ただ彼女の手をしっかりと握りながら、真剣な表情で言った:

「今のあなたは痩せすぎよ。栄養も全然取れていないから、赤ちゃんが元気なはずがないわ」

そう言いながら、立ち上がって外に向かった。「ちょっと待っていて、何か食べ物を買ってくるわ」

「結衣」

九条結衣が振り返って出ようとした時、夏川雫は彼女を引き止めた。彼女の指先は冷たく、血液まで凍っているかのようだった。

「どうしたの?」

夏川雫は下唇を強く噛みながら、掠れた声で言った:「赤ちゃん...下ろしたい」

その言葉を言い終えた時、彼女の声は明らかに震えていた。

九条結衣も、その言葉を聞いた瞬間、手が少し震えた。

「あなた...決心したの?」

夏川雫の目の縁が赤くなっているのを見て、結衣は彼女が諦めきれていないことを悟った。

しかし、雫は眉を伏せて全ての感情を隠し、震える声で答えた:「うん、決めたわ」

「私も結衣みたいに、一人で子供を産んで、一人で育てられると思った。でも結衣、私には...その力がないってわかったの」

彼女はベッドのシーツを強く握りしめ、ほとんど全力で掴んでいたため、シーツにしわができていた。「私は自分の面倒も見られないのに、どうやって子供の面倒を見られるっていうの」

「ましてや、きちんと一人前に育て上げることなんて...結衣、私にはその能力がないの。私には面倒を見られない...」

九条結衣もこの時、夏川雫をどう慰めていいかわからなかった。この子の存続は、彼女が決められることではなかった。

しばらくの沈黙の後、彼女は夏川雫を見つめながら、低い声で尋ねた:「子供は田中行のもの?」

質問とはいえ、九条結衣の心の中では確信があった。

田中行以外にはありえない。

夏川雫の体は少し強張ったが、九条結衣に隠すことなく、頷いた。

「彼はどう言ってるの?」