672.影后の優越感

特に、あの母親は情け容赦がなく、恥知らずだった。

彼は黒崎芳美に対して何の感情もなく、せいぜい名前を知っている他人でしかなかった。

彼女が彼に関わってこなければ、彼から進んで彼女に面倒を起こすことはない。しかし、彼女が命知らずで彼に関わってきたり、さらには彼の妻に関わってきたりすれば、容赦なく対応するまでだ。

クルーズ船での出来事を思い出し、あの女が自分の妻の前で高慢ちきな態度を取っていたことを思い出すと、藤堂澄人の目に冷たい光が宿った。

「もしあの女に会って、彼女があなたに面倒をかけてきたら、遠慮なく、好きなようにやっていいからね?」

彼は、この愚かな女が、あの女が彼の母親だということを気にして自分を抑えてしまうのではないかと心配していた。

九条結衣は彼の言葉の意図を察し、顔を上げて彼を見つめ、笑いながら言った:

「安心して。私は実の父親にも気を使わないのに、あなたの実母に気を使うわけないでしょう?」

藤堂澄人は彼女の言葉に笑みを浮かべ、再び彼女の頭を撫でた。黒崎芳美のことで煩わしくなっていた気持ちも、この時にはずいぶんと和らいでいた。

九条結衣は、このチャリティーパーティーでの黒崎芳美との出会いは単なる挿話だと思っていたが、翌日には早くも誰かが彼女を訪ねてくるとは予想もしていなかった。

カフェの中で、九条結衣は窓際の席に座り、マスクとサングラスをかけてカフェに入ってきて、彼女の方へ歩いてくる艶やかな美人を冷ややかな表情で見つめていた。

「申し訳ありません、藤堂奥様。お待たせしてしまって。」

来訪者は他でもない、芸能界の新進気鋭の影后、高橋夕だった。

彼女はサングラスを外し、九条結衣の前に座って、とても魅力的な笑顔を見せた。

「お笑い草でございますが、私たちのような公人は、パパラッチに付けられるのが怖くて、それで……」

九条結衣は高橋夕を見つめながら、この人はかなり滑稽だと感じた。一言一句に影后としての優越感が滲み出ていた。

まるで彼女の前で影后の肩書きを見せびらかしているかのようだった。

黒崎芳美との関係で高橋夕に対して個人的な感情を持っているのか、それともこの人が本当に気取っているからなのか、とにかく、九条結衣は目の前の高橋夕に対して、あまり好感を持てなかった。

彼女は高橋夕を見つめ、程よく唇を曲げて言った: