いいえ、あの冷たい藤堂社長じゃない、きっと入れ替わったに違いない。
先日奥様と喧嘩でもしたのか、頭に衝撃を受けて、親しみやすくなってしまったのだろうか?
社長が春風のように従業員用エレベーターに乗り込むのを見て、中にいた従業員たちは一瞬で背筋を伸ばした。
「お、おはようございます、社長」
「おはよう。何階に行く?」
初めて社長と同じエレベーターに乗る各部署の従業員たちは、緊張のあまりボタンを押すのを忘れていた。
社長にそう聞かれ、突然の恩寵に驚いた。
「5...5階です」
「8...8階です」
「26階です」
「...」
社長が辛抱強く一つ一つボタンを押してくれる様子を見て、少しも不機嫌な様子もない中、従業員たちは息を詰めていた。
エレベーターを出た時、全員が生き返ったような気分だった。