680.嫁がいない君には分からないよ

「あ、あの……暇だったから、別に疲れないし」

九条結衣の問いかけに、夏川雫は少し心虚になって彼女の視線を避けた。

九条結衣は彼女を信じていなかった。目の前の書類は山積みになっているのに、本当に暇つぶしなら、こんなに必要なのだろうか?

彼女は、雫が純粋に仕事で自分を麻痺させようとしていることを知っていた。田中行と、田中行に関する全てのことを忘れるために。

だからこそ、一緒に旅行に連れて行って気分転換させたかった。自分の目で見守れば、少しは安心できる。

もともと骨と皮だけになっているのに、このまま放っておいたら、命を粗末にするつもりなのか。

「暇なんでしょう?じゃあ、私と一緒に遊びに行って、気分転換しましょう」

夏川雫は気づいた。この親友は藤堂澄人とよりを戻してから、性格までもその豚に似てきている。