702.意地っ張り

藤堂澄人夫妻が島に上がった時、九条結衣は何気なく田中行の方を見やった。彼が無表情で、夏川雫のことを全く気にかけていないような様子を見て、九条結衣の心情は徐々に複雑になっていった。

少し考えてから、彼女は田中行に声をかけた。「雫を責めないでください。彼女だってあの子を堕ろしたくはなかったんです。でも運命がそうさせたんです。彼女にも選択の余地がなかったんです。」

あの日、病室を出る時に中から聞こえてきた抑えた泣き声を思い出し、九条結衣は思わず夏川雫のことが切なくなった。

彼女は知っていた。夏川雫という人は、気が強くて負けず嫌いで、口では子供を堕ろすと言っていたけれど、本当にそんなことができるはずがないということを。

夏川雫が堕ろした子供のことが再び話題に上がると、田中行は釣り竿を握る手に思わず力が入り、表情は相変わらず冷淡なままだった。