701.プラスチックの兄弟愛

彼女の心の中では田中行と一緒になりたいと思っていても、雫の気持ちを尊重することにした。

「じゃあ、ゆっくり休んでね。すぐ戻ってくるから」

「行ってらっしゃい」

彼女は軽く手を振り、九条結衣夫妻を追い払った。

二人の後ろ姿が遠ざかっていくのを見て、夏川雫の口元の笑みがゆっくりと消えていった。

実は、藤堂澄人の言う通りだった。彼女は田中行に会うのが怖かった。心の奥底から湧き上がってくる後ろめたさは、彼女自身にも説明できないものだった。

口では田中行に対して申し訳ないことは何もないと言いながら、彼の目を見つめ、その瞳に映る失望と心の痛みを見ると、彼女の心は乱れてしまう。

湖心島で釣りをする人は今それほど多くなく、ほとんどの人にはその忍耐力がなかった。藤堂澄人が九条結衣を迎えに行った後、島には田中行一人だけが残された。