716.吐き気を催す面相

彼女は自分の感情を隠さなかったので、夏川雫への敵意のこもった視線は、九条結衣たち二人にはっきりと捉えられていた。

夏川雫には黒崎芳美が突然なぜ自分をそんな風に見るのか分からなかった。最初から最後まで、彼女は一言も発していないのに、それでも邪魔だというのか?

黒崎芳美に会う前は、九条結衣は木村家の母娘が見た中で最も始末に負えない人たちだと思っていたが、黒崎芳美に会ってからは、木村家の母娘の厚かましさは黒崎芳美には遠く及ばないと感じた。

彼女は黒崎芳美を見つめながら、軽く笑い出した。

「彼との面会を取り持つことは不可能です。でも、あなたが彼に伝えたいことがあるなら、まず私に聞かせてもらえれば、伝えられそうなことなら代わりに伝えてあげてもいいですよ。」

要するに伝言を運びたくないということだ。

黒崎芳美の表情がさらに少し歪み、冷たい表情で九条結衣を見つめながら言った:

「母子の間の話を、なぜあなたに知られなければならないの?」

しかし九条結衣は平然と肩をすくめて、「話したくないなら別にいいですよ。私も別に聞きたいわけじゃありません。それに、澄人があなたという母親を心から求めていると自信満々なんでしょう?なのになぜ彼と話すのに、私という他人を介する必要があるんですか?」

九条結衣は意図的に黒崎芳美の前で「他人」という言葉を強調して言い、その言葉の端々に込められた皮肉に、黒崎芳美の表情は再び制御を失いかけた。

九条結衣はもう黒崎芳美を相手にせず、その吐き気を催すような顔つきを見ることもなく、夏川雫の手を引いて立ち去った。歯ぎしりするほど憎しみに満ちた表情の黒崎芳美を残して。

しかし、継娘が息子を好きだということを考えると、やはり彼女の願いを叶えてやらなければならないと思った。

あの子は小さい頃から自分のそばで育ち、実の子ではないけれど、彼女にとっては実の子も同然だった。どうして九条結衣のような下賤な女を羨ましく思う姿を見ていられようか。

それに、夕のことがなくても、自分の息子に九条結衣のような目上を敬わず、義母である自分を全く眼中に入れない女を大事にさせるわけにはいかない。

九条結衣と夏川雫が別荘に戻る途中、夏川雫は九条結衣が蠅でも飲み込んだような表情をしているのを見て、冗談めかして言った: