732.金で鬼も動く

黒崎芳美の言葉を聞いた高橋夕は、思わず目を回した。

彼女は考えていた。かつての藤堂仁は、藤堂グループの堂々たる社長だったのに、どれほど目が見えていなかったのか。脳みそがないと言えるほど愚かな黒崎芳美のような女を好きになるなんて。

藤堂仁は天然ボケが好みなのか？

高橋夕の顔に浮かんだ軽蔑の表情を見て、黒崎芳美は彼女が高橋洵の前で自分の悪口を言うのを恐れ、すぐに言った：

「夕、信じて。私には必ず方法があるわ」

高橋夕にとって、黒崎芳美のこの謎めいた自信がどれほど愚かであるかは関係なかった。彼女が望むのは、ただ九条結衣に取って代わって藤堂家の若奥様になることだけだった。

黒崎芳美がどんな方法で彼女の願いを叶えようとしているのか、彼女は気にしていなかった。自分に累が及ばなければそれでよかった。

今、彼女は理解していた。藤堂澄人は普通の男性とは違う。女性を見ただけで足がすくむようなタイプではないし、近寄ってくる女性に簡単に従うような人間でもない。

藤堂澄人に対しては、じっくりと時間をかけて進めなければならない。

以前は、焦りすぎていたために藤堂澄人に悪い印象を与えてしまった。だから戦略を変える必要があった。

しかし戦略を変えるには、まず藤堂澄人に近づく機会が必要で、その機会は黒崎芳美に頼るしかなかった。

「そう？どんな方法があるの？」

彼女は眉を上げて黒崎芳美を見つめ、目の中に警告の色を浮かべた。「先に言っておくけど、あなたが馬鹿なことをするのは構わないわ。でも私に迷惑をかけないでね。私に迷惑をかけたら、ただじゃ済まないわよ」

黒崎芳美は恐れて心臓が震え、すぐに頷いた。「安心して、ママは分かってるわ」

高橋夕は彼女が自分のことを「ママ」と呼ぶのを聞いて吐き気を覚えたが、今は彼女に頼みごとがあるので我慢した。

「話してみて。どんな方法があるの？」

高橋夕は黒崎芳美を見つめながら、露骨な軽蔑を含んだ口調で言った。

「私は知ってるわ。結衣は私のことを嫌がってる。澄人が私をママとして認めたら、上に姑がいることになるのを恐れてるの。だから必ず澄人の耳元で色々と囁いているはずよ。

だから、結衣と澄人の間の感情に亀裂を作れば、澄人は必ず私をママとして認めてくれる。そうすれば、あなたにもチャンスが巡ってくるわ」