731.今まで男を欲しがったことがない

だから、彼女は自分から息子に会いに行けば、きっと喜んで許してくれて、そして母親である自己の言うことを聞いて、夕と接触してくれると信じていた。

しかし、思いもよらなかった……

きっと九条結衣という女が澄人の前で何か吹き込んだに違いない。

彼女は澄人が母親である自分を受け入れたら、上に姑という存在が加わって、自由気ままな生活が送れなくなることを心配したのだ。だから、きっと息子を扇動したに違いない、間違いなく!

あの賤女め!

黒崎芳美は歯ぎしりするほど憎らしかった。あの賤女が邪魔さえしなければ、継娘の前でこんなにも頭が上がらない思いをすることもなかったのに。

高橋夕は黒崎芳美の心の中にこんな身勝手な考えがあることを知らなかったし、知る必要もなかった。彼女は自分が藤堂澄人を手に入れたいという思いだけを知っていればよかった。