734.元々人間性なんてない

しかし、あの時の雑誌での黒崎芳美の初めてのインタビューで、彼女の言葉の端々から、決して控えめな人物ではないことが伝わってきた。そして、記者の質問に対する彼女の答え方は、まるで初めて高橋奥様として公の場に出たかのようだった。

なぜ彼女は以前はメディアの前に一度も姿を現さなかったのに、後になってあんなに派手にインタビューを受けるようになったのか?

おそらく、高橋洵が許可したからだろう。

つまり、以前の黒崎芳美は、世間で言われていた通り、高橋洵の愛人に過ぎなかったのかもしれない。率直に言えば、ただの情婦だった。

最近になってようやく正式な立場を得たということだ。

黒崎芳美の本性を知っているだけに、彼女に関する異常な出来事すべてが九条結衣には疑わしく思えた。

そう考えながら、藤堂澄人に向かって言った:

「黒崎芳美の高橋奥様という立場って、最近になって得たものだと思わない?」

藤堂澄人は「黒崎芳美」という名前を聞くだけで嫌悪感で眉をひそめた。妻の言葉を聞いて、彼も黒崎芳美の高橋奥様という立場が不安定なものに思えた。

九条結衣は先ほどの自分の考えを藤堂澄人に分析して伝え、そして言った:

「彼女は高橋奥様として公の場に姿を現してからそれほど経っていないのに、突然あなたの前に現れて、私たちにあんなに恥をかかされても、まだそんなに執着している。何か別の目的があるんじゃないかって気がするの。」

黒崎芳美が純粋に藤堂澄人という息子に会いに来ただけだとは、彼女には信じられなかった。

人性を悪く考えすぎているわけではない。黒崎芳美という女性には、そもそも人性らしいものがないのだ。

もし少しでも人性があったなら、不倫した後で少しの罪悪感も持たず、夫の死体が冷めないうちに二人の子供を置き去りにして出て行くようなことはしなかったはずだ。

だから、自分の欲望のために幼い子供さえも見捨てるような女が、今になって突然息子を探しに来るなんて、九条結衣は自分が彼女を悪く考えすぎているのではなく、その女が本当に悪い人間なのだと確信していた。

藤堂澄人は九条結衣の言葉を聞きながら、最近部下が調査で発見したことを思い出し、気づかれないように眉をひそめた。

あの当時の一味は、これほど長い間沈黙を保っていたのに、最近また少しずつ動き出す傾向が見られる。