「彼女に持って行ってあげて。彼女はこういうのが好きだから」
漂ってくる香ばしい匂いに、九条結衣の瞳が、さりげなく輝いた。
以前は油っこいと嫌がっていた焼き鳥が、今日は簡単に食欲をそそられてしまう。
手を伸ばして皿を受け取ると、田中行がさらに一言付け加えた。「彼女の分を取って食べないでよ」
彼女がさっき、この皿の料理を独り占めしたいような輝く目をしていたのを、見逃していなかったのだ。
九条結衣:「……」
この田中行は彼女の旦那に感化されて、けちで細かくなってしまった。
「じゃあ自分で持って行けよ。なんで俺の嫁が使い走りして、報酬もらえないんだ」
妻を溺愛する男がすぐに近づいてきて、冷たい目で田中行を見つめた。
田中行:「……」
藤堂澄人は田中行の目に浮かぶ軽蔑を無視して、結衣の方を向いて言った:
「いい子だから、後で旦那が焼いたのを持って行ってあげるから、他の人にあげないでね」
九条結衣:「……」
彼女はこの二人の子供じみた男たちと話したくもなかった。左右に山盛りの焼き鳥の皿を持って、別荘の方へ向かった。
九条結衣が別荘に戻ると、夏川雫が一人でソファに座り、クッションを抱きしめたまま呆然としていて、目が明らかに赤くなっていた。
玄関の物音を聞いて、夏川雫は急いで振り向き、結衣だと分かってほっとした様子だった。
「どうして戻ってきたの?」
夏川雫は小声で尋ねた。
結衣は答えずに、彼女の隣に座り、手に持っていたものをテーブルに置いて、逆に尋ねた:
「眠いから寝るって言ったのに、ここで何してるの?」
結衣の質問に心虚になった夏川雫は、思わず彼女の含み笑いを帯びた視線を避けて言った:
「ベッドに横になっても眠れなくて、また出てきちゃった」
結衣は唇を緩めて、夏川雫の嘘を暴くことなく、自分が持ってきた二皿の焼き鳥を指さして言った:
「あなたがこういうの好きだって知ってたから、特別に持ってきたの」
目の中の物思いを隠して、夏川雫は感謝の表情で結衣を抱きしめた。「やっぱり結衣が一番私のことを考えてくれる。いつも私のことを気にかけてくれて」
結衣は、彼女のことをいつも考えているのは自分じゃないと言いたかった。
「はいはい、早く食べなさい。冷めたら美味しくなくなるわよ」