719.私だって警戒しないと

あれこれ考えた末、やはり自分の旦那様に知らせて、備えをしてもらう必要があると思った。

黒崎芳美という人物は藤堂澄人の前では取るに足らない存在だが、小物は厄介だということも分かっていた。

歴史上でも、些細なことで失敗した大物は少なくない。

小人が得意になる時もある。

九条結衣と同じように考えて、黒崎芳美が継娘と同時に島に現れたのは、彼にとって単なる偶然とは思えなかった。

冷たい雰囲気を漂わせる瞳が細められ、危険な気配が彼の目の奥から少しずつ溢れ出してきた。

しばらくして、藤堂澄人が口を開いた。「彼女は何がしたいんだ?」

九条結衣は病院の入り口で黒崎芳美が言った言葉を思い出したが、藤堂澄人には伝えないことにした。

あんな常識を覆すような発言は、自分が一度気分悪くなっただけで十分で、旦那様までそんな思いをさせる必要はなかった。

「分かりません。あの人があなたに話があると言っていました。」

彼女は藤堂澄人の胸に寄り添いながら、目に好奇心の光を宿らせた。

藤堂澄人は妻の目に浮かぶその輝きを一目で見抜き、軽く笑って言った。

「なんでそんなに優しいんだ?彼女の伝言まで届けてくれて。」

彼の妻のハリネズミのような性格からすれば、目の前まで来て挑発されても反撃しないだけでも上出来なのに、手助けまでするなんて。

妻は病院の入り口で黒崎芳美と具体的に何を話したのか詳しく話さなかったが、あの厚かましい女のことだから、きっと妻の機嫌を損ねるようなことを言ったに違いない。

案の定、九条結衣は彼の言葉を聞いて、眉を少し上げた。

体を動かして、さらに彼の方に寄り添いながら、「最初は伝言を届けたくなかったんです。でも、あの人が何を話したいのか言わないから、気になって仕方がなくて。」

彼女の指が藤堂澄人の胸の上で円を描くように動き、その仕草には明らかに挑発的な意味が込められていた。「行って聞いてみませんか?戻ってきたら教えてくれます?」

藤堂澄人の喉仏が思わず動き、彼女の落ち着きのない手を自分の体の上に押さえつけながら、声は一瞬にして掠れた。

「これ以上動くと容赦しないぞ。」

九条結衣は元々ただ彼をからかっていただけだったが、彼がこんなにも早く反応して、声まで明らかに掠れているのを聞いて、すぐに止めた。