743.彼女は本当に飲み干した

「本当に飲んでしまったわね。賢いと思っていたけど、私の見込み違いだったわ」

高橋夕は軽蔑的な口調で、少し得意げに言った。

本来なら九条結衣に気づかれるのではないかと心配していた。だって、あんなに愚かなくせに自信満々だった黒崎芳美が、突然仲の悪い義理の娘に謝りに行くなんて、誰だって疑問に思うはずだから。

九条結衣は賢いから、黒崎芳美の罠にはまらないと思っていたのに...結局、九条結衣という女の知能を過大評価していたようだ。

あんな頭じゃ、藤堂澄人にふさわしくないわ。

高橋夕はあんな素晴らしい男性が自分のものではないことを考えると、胸が苦しくなった。

一方、黒崎芳美は九条結衣が目印をつけたシャンパングラスを手に取って飲み干した時、やっと胸のつかえが下りた。

少なくとも、彼女の計画は成功した。高橋奥様の座は守られた。

あの所謂義理の娘なんて、義母である私を敬う者こそが本当の義理の娘。九条結衣のような生意気な女、何度も口答えして私を皮肉る女を、私が義理の娘として認めるわけがない。

ふん!

「今夜が過ぎれば、あの生意気な女が私たちの前でどう威張れるか見物ね」

心の重荷が下り、九条結衣が直面することになる全てを想像すると、黒崎芳美は思わず胸を張った。

そして、媚びるような目つきで高橋夕を見て言った。「夕、私が約束した通り、澄人をあなたのものにするわ。今夜が過ぎれば、九条結衣にはもう望みはないわ」

高橋夕は彼女を一瞥し、珍しく賞賛の色を見せた。「今回はよくやったわ。あの女が大輔の下で乱れる姿が今から楽しみ」

黒崎芳美も笑いながら言った。「後で島中の人を連れて見物に行きましょう。そうすれば、国際的な恥をかくのは彼女よ。私の息子が世界中に知れ渡る不倫の被害者になったことを知ったら、あの淫らな妻にどんな仕返しをするのかしら」

高橋夕は、黒崎芳美が自分に取り入るために藤堂澄人と九条結衣を貶める言葉を聞きながら、この女の「身内を裏切る」執念深さに感心した。

九条結衣を軽蔑するのは理解できる。所詮他人だから。でも藤堂澄人は、十月十日お腹を痛めて産んだ実の息子なのに、他人に取り入るためにここまで実の息子を陥れ、このような大きな不義を被らせることまでする。本当に恐れ入る。

藤堂澄人は本当に不運だ。こんな実母を持つとは。