778.自分の足を制御できない

彼女は無意識に自分の鼻の下を触ってみた。乾いていて、鼻血は出ていなかった。そっとため息をついた。

そんな彼女の明らかな仕草に、藤堂澄人はついに吹き出してしまった。

九条結衣の唇に軽くキスをして、「お前、本当に可愛くなってきたな」と言った。

九条結衣は彼にからかわれて、頬がさらに赤くなった。藤堂澄人の顔に浮かんだ笑みを見て、彼女は不機嫌そうに唇を曲げ、ゆっくりと彼の前に歩み寄り、優しい笑顔を浮かべた。

藤堂澄人は妻のその笑顔に一瞬うっとりとしてしまったが、次の瞬間、足の甲に激痛が走った。妻が容赦なく彼の足を踏みつけていたのだ。

「お前...」

「あなたも、本当に可愛くなってきたわね」

「……」

元旦休暇が終わると、九条結衣たちは藤堂島を離れることになった。藤堂澄人も怪我をしていたので、長く外にいるのは良くなかった。

元旦休暇が明けて三日目に、彼らは出発することになった。

藤堂島には観光客のプライベートジェット用に区画された広大な空き地があった。藤堂家の一行が飛行機に乗る直前、鈴木建国の飛行機がちょうど同じ時間に駐機場に着陸した。

鈴木大輔の父親である鈴木建国と母親の井上緑が慌ただしく飛行機から降りてきて、両者はまさにばったり出くわした。

鈴木建国は藤堂澄人を見るなり、顔色を急に曇らせた。明らかに息子を去勢した藤堂澄人の行為に対して、非常に不満で怒りを感じていた。

彼はその息子のことを気にかけていなかったとはいえ、外部の人間は彼に鈴木大輔という一人息子がいることを知っていた。

建設業界の大物として、誰もが多少は彼に面子を立ててくれるはずだった。しかし目の前のこの若くして誰もが仰ぎ見る若者は、両者が十数年も協力関係にあったにもかかわらず、その関係を少しも考慮せず、このように彼の息子を去勢してしまった。

彼は息子に困っていないので、この息子が藤堂澄人に不具にされても気にしなかったが、気にかかるのは自分の面子だった。

藤堂澄人がこのように無遠慮に息子を扱ったことは、明らかに彼の顔に泥を塗るようなものだった。