779.恥辱の傷跡

特に九条結衣を見る目つきは、まるで九条結衣が息子を誘惑して藤堂澄人に不倫現場を押さえられ、去勢されたかのようだった。

九条結衣は彼らの視線を無視し、藤堂澄人より先に飛行機に乗り込んだ。後ろの井上緑の歯ぎしりするような目つきを見て、藤堂澄人は眉をひそめ、すぐに彼女の前に立ち、井上緑の視線を遮った。

「鈴木夫人、私の奥様をそんな目で見て、何かご用でも？」

鈴木建国の感情を抑える巧みさに比べ、井上緑はそれほど冷静ではなかった。

特に自分の息子がこんな残酷な方法で廃人にされたことを思うと、井上緑は我慢できなかった。

「どうして？藤堂社長、あなたは理由もなく私の息子にこんなひどい仕打ちをしておいて、私があなたの奥様を見ることも罪なのですか？」

井上緑の口調は冷たく憎しみに満ちていたが、目の前の人が簡単には手を出せない相手だと分かっていたため、あまり強い言葉は使えなかった。

しかし、この本質を避けた言い方は少し滑稽だった。

藤堂澄人は冷ややかな目で彼女を一瞥し、話す気はなさそうだった。ただ視線を横の同じく不満げな表情を浮かべる男に向けた。

「鈴木社長も理由がないとお考えですか？」

彼がそう尋ねると、鈴木建国の顔に居心地の悪そうな表情が浮かんだ。事の顛末については、藤堂澄人の部下から既に聞かされていた。

高橋家のあの愚か者は、自分の仕事もろくにできず、息子まで巻き込んだ。この借りは決して簡単には済まさない。

しかし、だからといって藤堂澄人が息子にしたことを簡単に許すわけにはいかない。

彼は気にしていないかもしれないが、藤堂澄人が彼の面子を無視して行動することは許されない。

そう考えながら、鈴木建国は冷ややかに鼻を鳴らし、言った：

「藤堂社長のおっしゃることですが、あなたの奥様を陥れたのは高橋洵の娘と妻です。私の息子も彼女たちに騙されただけです。それに結局、高橋夕は自業自得の結果を招き、あなたの奥様は無事にここにいらっしゃる。それなのに、私の息子にこんなことをするのは、やり過ぎではないですか？」

さすがはビジネス界で揉まれてきた人物だ。わずか数言で自分の息子を被害者に仕立て上げた。

残念ながら、今回相手にしたのは権力も影響力もない一般市民ではなく、彼、藤堂澄人だった。