九条結衣の顔から笑顔が一瞬で凍りついた。隣にいた夏川雫も顔を曇らせた。結衣はもちろん、彼女でさえ、この義理の妹は精神病にでもかかったのではないかと思った。場所も選ばず、誰かれ構わず噛みつくなんて。
彼女が何か言おうとしたが、九条結衣に止められた。
普段なら、九条結衣はとっくに藤堂瞳を懲らしめていただろう。しかし今は、植田涼のことを考えて、あまり醜い争いは避けたかった。ここはショッピングモールで、人通りも多いのだから。
藤堂瞳が自分の面子を守る気がないとしても、せめて植田涼のためには少しは配慮したかった。
藤堂瞳を無視して、植田涼に向かって言った。「私たちは先に行くわ。ゆっくり買い物してね」
「はい、お義姉さん、お気をつけて」
植田涼は九条結衣たちのために道を開けた。
藤堂瞳にこんなことをされては、九条結衣たちはもうデザートを食べる気分ではなくなっていた。
しかし、それでも藤堂瞳は狂犬のように彼女に噛みついてきた。九条結衣が立ち去ろうとした瞬間、藤堂瞳が言った。
「そんなに急いで帰るなんて」
九条結衣は足を止めて彼女を見つめ、薄く笑って言った。「私にランチをおごってくれるつもり?」
「私はおごらないわ。でも、うちの域はわからないわね。あなたのことをとても気に入っているみたいだから」
嫌味だけならまだしも、藤堂瞳の後半の言葉は何を暗示しているのか?
九条結衣の表情が一気に険しくなり、口元の笑みも消え去った。
彼女が口を開く前に、隣にいた植田涼が先に声を上げた。「藤堂瞳、いつまでこんなことを続けるつもりだ?」
彼の声は大きくなく、せいぜい四人にしか聞こえない程度だったが、必死に抑えている怒りは明らかだった。
以前の藤堂瞳がどんなにわがままでも、少なくとも限度というものがあった。しかし今、彼女は藤堂瞳の愚かさには底がないことに気づいた。想像もできないようなことを、藤堂瞳はやってのける。
以前は、黒崎芳美のような実母を持ち、一歳にも満たない娘を置いて他人の娘の面倒を見に行ってしまったことを同情していた。
しかし今は、藤堂瞳が滑稽に思えるだけだった。実母に捨てられただけでなく、実母の愚かさまで受け継ぎ、それ以上のものになってしまった。
植田涼の眉間に浮かぶ疲れを見て、彼らがいない間にも、二人の間で何か別のことが起きたに違いないと悟った。