808.キャラ設定が崩壊した

「夕、大丈夫？お母さんに見せて、どこか怪我してない？」

高橋夕は転んで痛かったが、ここは大通りだと思い、歯を食いしばって地面から立ち上がった。

多くの人がスマートフォンで撮影し始めているのを見て、急いで出てきた時に変装を忘れていたことを思い出した。

今や皆が彼女だと気付いていた。

それだけならまだ良かった。骨董品店に立ち寄って、不注意で転んだだけのことだ。可哀想な振りをして同情を買えば、ファンは心配してくれるはずだった。

腹立たしいのは黒崎芳美というこの老いぼれが、突然現れて、最も言ってはいけないことを口にしたことだ。

この女が自分の母親を名乗るなんて。

高橋夕は即座に不吉な予感がした。案の定、黒崎芳美が現れてあの言葉を発してから1分も経たないうちに、見物人たちが小声で囁き始めた：

「あの女性は高橋奥様じゃない？どうして高橋夕のお母さんになってるの？」

高橋夕は背筋が凍り、その声の方を振り向くと、その人がスマートフォンで何かを急いで入力しているのが見えた。心臓が止まりそうになった。

膝の激痛も構わず、素早く駆け寄って鋭い声で叫んだ。「投稿しないで！」

彼女の声は大きく、動画を投稿しようとしていた人を驚かせた。その人は反射的に彼氏の後ろに隠れ、震える声で言った：

「す、すみません、もう投稿しちゃいました。す、すぐ削除します。」

しかし、高橋夕は最近人気絶頂で、二日前には大富豪とトレンド入りしたばかりで、その話題性がまだ冷めていなかった。そのため、高橋夕に関する動画は投稿されるや否や、数秒のうちに数十万人がダウンロードしてしまった。

この女性が今削除しても手遅れだった。

高橋夕は、苦労して作り上げたキャラクターが今日で完全に終わりを迎えたことを悟った。

彼女はその女性を凶暴な目つきで睨みつけ、まるで一口で飲み込もうとするかのようだった。その様子は、テレビで見る温厚で親しみやすく、素朴で優しい田舎育ちの女優とは全く異なっていた。

むしろ、その女性の彼氏は、自分の彼女をこんなに怖がらせる高橋夕の凶暴な態度に腹を立てた。

すぐさま彼女を後ろに庇い、高橋夕の鼻先を指差して声を張り上げた：

「何を怒ってるんだ。自分でファンを騙すために作ったキャラが崩れたからって、他人のせいにするのか？」

「あなたは...」