810.男は新しいものを好み、古いものを嫌う

藤堂夫婦が三十分前に龍閣で買い物をしていた時、高橋夕は継母と一緒に店に現れた。

先ほどの曖昧な暴露記事に加えて、高橋夕が藤堂澄人に気持ちがないなんて、彼らは絶対に信じないだろう。

今や多くの人が高橋夕は高橋洵の娘だと確信している。田舎の素朴な女の子が女優として成功したという展開は、もはや白目を剥きたくなるほど批判の的となっていた。

高橋夕が高橋洵の娘なら、彼女が藤堂澄人に憧れを抱くのも理解できる。

結局のところ、彼女の父親である高橋音楽家には実力があり、芸能界で適当に演奏する小さなスターや歌手とは違う。

「音楽家」と呼ばれる大才能なのだから。

面白いのは、高橋夕が藤堂澄人を切なげに見つめているのは、彼に自分を見てほしいからだろうが、皮肉にも彼の目は妻にしか向けられておらず、彼女に向ける視線など一切なかった。