810.男は新しいものを好み、古いものを嫌う

藤堂夫婦が三十分前に龍閣で買い物をしていた時、高橋夕は継母と一緒に店に現れた。

先ほどの曖昧な暴露記事に加えて、高橋夕が藤堂澄人に気持ちがないなんて、彼らは絶対に信じないだろう。

今や多くの人が高橋夕は高橋洵の娘だと確信している。田舎の素朴な女の子が女優として成功したという展開は、もはや白目を剥きたくなるほど批判の的となっていた。

高橋夕が高橋洵の娘なら、彼女が藤堂澄人に憧れを抱くのも理解できる。

結局のところ、彼女の父親である高橋音楽家には実力があり、芸能界で適当に演奏する小さなスターや歌手とは違う。

「音楽家」と呼ばれる大才能なのだから。

面白いのは、高橋夕が藤堂澄人を切なげに見つめているのは、彼に自分を見てほしいからだろうが、皮肉にも彼の目は妻にしか向けられておらず、彼女に向ける視線など一切なかった。

以前、炎上問題を解決してくれたことがあり、藤堂澄人が明らかに彼女に興味がない様子を見せていても、高橋夕は彼が九条結衣への配慮から冷たくしているだけだと信じ込んでいた。

そうでなければ、なぜ彼が河内欣から彼女を守ってくれたのか説明がつかない。

結局のところ、河内欣の背後には後ろ盾がいると噂されており、藤堂澄人の力があれば、誰が河内欣を支援しているか調べることができたはずだ。

その後ろ盾を恐れてはいなかったとしても、自分に面倒を引き起こすことになるのに、それでも彼はそうした。黒崎芳美の言う通り、もし彼女に気持ちがなければ、藤堂澄人がなぜそんな面倒に首を突っ込むだろうか。

藤堂澄人との接点は少なくても、彼が余計な事に首を突っ込む人間ではないことは分かっていた。特に、この「余計な事」は彼と九条結衣の関係に影響を与えるものではなかったのだから。

だからこそ、高橋夕は黒崎芳美の言葉を深く信じていた。藤堂澄人は自分に気があるのだと。ただ、九条結衣との間に感情があるため、彼は九条結衣の面子を考えているのだと。

そのため、高橋夕は今の自分と九条結衣の間には、それぞれ半々のチャンスがあると考えていた。重要なのは、二人がどれだけ男性の心をつかむ術を持っているかということだった。