高橋夕の勇気を振り絞った告白は、一瞬にして大きな笑い話となってしまった。
彼女はもう立っていられず、後ろに何歩も躓きながら、最後には藤堂澄人に心を深く傷つけられたかのように、振り返って走り去った。
一方、女性客席に案内され他の宴会参加者と一緒にいたものの、ずっと高橋夕に注目していた黒崎芳美は、彼女が藤堂澄人を追いかけて子供エリアまで行くのを見ていた。
二人が何を話したのかは聞こえなかったが、明らかに藤堂澄人は終始彼女に良い顔を見せなかった。
あのお荷物は本当に息子のことが好きなのだろう。こんなに冷たくされても、厚かましく人前で去りがたそうにしている。
黒崎芳美の目の奥には、見物人としての味わいが隠しきれなかった。
さすが私の黒崎芳美が産んだ息子だわ、魅力が違うわね。あの高慢ちきなお荷物をこんなにも焦らせて、他人の誕生祝いの席でこんなにしつこく追いかけ回すなんて。
高橋夕が去ると、九条結衣は振り向いて、目を細めて藤堂澄人を見つめ、その目には警告の色が含まれていた。
「藤堂島主の魅力は相変わらずですね。私が数分離れただけで、また小悪魔に絡まれるなんて。本当に一時も目が離せませんね。」
藤堂澄人は彼女の酸っぱい口調を聞いて、思わず軽く笑い出した。
身を屈めて彼女の手を取り、自分の顔に近づけながら、「それなら、この顔を台無しにしてみたら?」
九条結衣は自分の綺麗に切られた爪を見て、丸みを帯びた指先を見せ、しばらくして周りを見回した。まるで何かを探しているようだった。
いつも妻の前で愛嬌を振りまく藤堂澄人は、すぐさま自ら進んで尋ねた。「何を探してるの?旦那が探してあげるよ。」
「ナイフを探してるの。」
「ナイフ?」
藤堂澄人の心に、不吉な予感が湧き上がってきた。「ナイフで何をするつもり?」
「あなたの顔を台無しにするのよ。さっきあなたが言ったでしょう?」
九条結衣は当然のように答え、全く罪悪感がないようだった。
彼女は藤堂澄人に掴まれた手を揺らし、長さのない自分の爪先を指さして言った。
「この爪じゃあなたの顔を台無しにするには殺傷力が足りないわ。」
彼女は真面目な顔で言い、まったく冗談を言っているようには見えなかった。
藤堂澄人の口元の笑みが一瞬固まり、その後、機嫌を取るように彼女を抱きしめて言った。