822.どんなことがあっても妻を悲しませない

高橋夕の勇気を振り絞った告白は、一瞬にして大きな笑い話となってしまった。

彼女はもう立っていられず、後ろに何歩も躓きながら、最後には藤堂澄人に心を深く傷つけられたかのように、振り返って走り去った。

一方、女性客席に案内され他の宴会参加者と一緒にいたものの、ずっと高橋夕に注目していた黒崎芳美は、彼女が藤堂澄人を追いかけて子供エリアまで行くのを見ていた。

二人が何を話したのかは聞こえなかったが、明らかに藤堂澄人は終始彼女に良い顔を見せなかった。

あのお荷物は本当に息子のことが好きなのだろう。こんなに冷たくされても、厚かましく人前で去りがたそうにしている。

黒崎芳美の目の奥には、見物人としての味わいが隠しきれなかった。

さすが私の黒崎芳美が産んだ息子だわ、魅力が違うわね。あの高慢ちきなお荷物をこんなにも焦らせて、他人の誕生祝いの席でこんなにしつこく追いかけ回すなんて。