821.九条結衣の恩恵にあずかる

高橋夕は藤堂澄人の冷酷さと毒舌を目の当たりにした。彼女を徹底的に打ちのめしたのだ。これ以上はっきりさせる必要があるだろうか？

高橋夕は目を真っ赤にして、まるで藤堂澄人にひどい目に遭わされたかのように、唇を噛みながらも諦めきれずに告白した：

「澄人さん、私...私は本当にあなたのことが好きなの。こんなに尊厳を失うほど好きなの。あなたは...」

「彼のことを好きな女なんて山ほどいるわ。あなたなんて取るに足らないわ」

不協和音のような声が、抑えた怒りを含んで、高橋夕の厚かましい言葉を遮った。

妻の声を聞いた藤堂澄人の表情が明るくなり、高橋夕の後ろに視線を向けると、その表情は柔らかくなった。先ほどまでの高橋夕に向けていた冷淡で刺すような態度は微塵も見られなかった。

「結衣」

彼は素早く九条結衣を自分の側に引き寄せた。まるで妖怪に囲まれた三蔵法師が孫悟空に救われたかのように、目を輝かせていた。

九条結衣は彼を一瞥し、口角を引き攣らせた。

手を伸ばして藤堂澄人の頬を摘まみ、「あなたが蜂や蝶を引き寄せるのはまだいいけど、毎回追い払っても追い払っても来るハエばかり。あなたの体が臭いんじゃない？」

「嗅いでみる？」

藤堂澄人が九条結衣の前に顔を近づけた。その甘えた様子を見て、高橋夕の目が痛くなった。

彼女には理解できなかった。たった30秒前まで彼女に対して冷淡で情け容赦なかった男が、どうしてこの女性に対してこれほど頭を下げることができるのか。

九条結衣は本当に近づいて匂いを嗅いでみせた。二人が甘い言葉を交わし合う中、傍らのハエのような存在は完全に無視されていた。

それでもなお、高橋夕はこのまま立ち去ることができなかった。

彼女は強く唇を噛みながら、傷ついた目で藤堂澄人を見つめ、まだ彼が自分を見てくれることを期待していた。

九条結衣は、自分と藤堂澄人がこんな態度を取っているのに、高橋夕がまだ去る気配を見せないのを見て、目に浮かぶ嫌悪感をもはや隠そうともしなかった。

「高橋お嬢様、最近田舎娘のキャラ設定が崩れたから、開き直って不倫相手のキャラ設定に変えようとしているの？」

彼女は高橋夕の目に一瞬よぎった凶暴さと悪意を無視して、笑いながら言った。「忠告しておくけど、そのキャラ設定は人気が出ないわよ」