826.彼女から目を離すなと言ったはずだ

藤堂澄人と直接対面したことのない人々は、テレビや雑誌で見かける、常に冷たく距離を置き、神様のように近寄り難い男性を思い出した。スクリーン越しでさえ、彼から放たれる威圧感を感じることができた。

妻の前で犬のように媚びを売り、機嫌を取ろうとする目の前の男性とは全く異なっていた。

もしこの顔を何度も見たことがなければ、誰かがこの男性を指差して、この方が藤堂家当主だと言っても、誰も信じなかっただろう。

最初は彼に話しかけることを躊躇していた人々も、プライベートでの藤堂澄人がこれほど親しみやすい人物だと知り、少し大胆になった。

数人の教授たちの中に立っていた高橋洵も、噂では冷酷で傲慢だという藤堂澄人が、私生活ではこのような姿であることを目にし、意味深な眼差しを向けた。

さりげなく群衆を見渡したが、自分の娘の姿が見当たらず、高橋洵は目立たないように眉をひそめた。