825.藤堂社長の情商が上がった

彼女が今できることは、藤堂瞳のことに余計な口出しをしないことだけだった。

藤堂澄人に枕元で耳打ちをしたり、藤堂瞳を助けるよう積極的に頼んだりしないこと。これが彼女にできる唯一のことだった。

藤堂澄人夫妻が小林お爺さんを訪ねた時、ちょうどテーブルを囲んで何かを議論している老人たちがいて、二人が近づくと小林お爺さんは急いで呼び寄せた。

「ご覧なさい。これは私の孫娘婿が贈ってくれたものだよ。本当に目が利くね。私の心にぴったりのものを贈ってくれた。ハハハ~」

小林家はお金に困っていない。小林夫妻は退職した教授だが、息子、つまり九条結衣の叔父は長者番付の常連だった。だから、どんなに高価なものでも、彼の目には価格の多寡は重要ではなかった。

むしろ、その贈り物が彼の好みにどれだけ合っているかが重要だった。

明らかに、藤堂夫妻が贈った斎藤大博の行書の字帖は、彼の大のお気に入りで、手放したくないほどだった。

話の端々で孫婿の目利きの良さを褒めちぎるので、他の教授たちは思わずやきもちを焼いていた。

「もういいだろう、小林。お前に優秀な孫婿がいるのはわかったから、自慢するのはやめろ。今度その字帖を練習用に貸してくれよ。」

小林お爺さんと同じ大学で教鞭を執っていた別の老教授が不機嫌そうに言った。

「そうだよ。もう30分も自慢し続けているじゃないか。」

もう一人の老教授も軽蔑したように言った。

しかし小林お爺さんは平然とした様子で、字帖を手放そうとせず、「貸さない、貸さない。どんなに親しい仲でも貸さないよ!」

子供のように争う老人たちを見て、九条結衣は思わず苦笑し、藤堂澄人の方を見やって、深い目配せを交わした。

この字帖は実は彼女が選んだのに、お爺さんたちは藤堂澄人ばかり褒めている。

藤堂澄人は妻の目に込められた意味を完全に理解し、彼女の肩を抱きながら前に出て、愛想よく言った。

「お爺さんのおっしゃる通りです。私の目は確かに良いですよ。良くなければ、結衣のような素晴らしい妻を娶ることはできなかったでしょう。」

九条結衣:「……」

この人の情商はいつからこんなに高くなったのだろう。自分を褒めながら、彼女のことも忘れずに。

さっきまで字帖を奪い合っていた老教授たちは、突然の甘い言葉に一瞬呆然とし、その後揃って大笑いした。