827.突然強気になって

黒崎芳美の声の不満を聞き取った高橋洵の瞳が、さりげなく沈んでいった。

数秒の沈黙の後、彼はようやく淡々と口を開いた。「君を責めているわけじゃない。ただここは土地勘もない場所だし、私は彼女の父親なんだから、心配するのも当然だろう」

黒崎芳美は心の中で納得がいかないように口を尖らせた。もう大人なのに、芸能界でこれだけやってきて、他人の家で誕生日パーティーに参加するのに、何が起こるというの?

赤ちゃんじゃあるまいし。

黒崎芳美の心には、皮肉な思いが込み上げてきた。

彼女は彼の側にこれほど長く居たのに、一度も優しい言葉をかけてもらえなかった。

ただし、先ほどの高橋洵の柔らかくなった口調は、以前では考えられないことだった。

このことで黒崎芳美は、高橋洵も高橋夕も、彼女を通じて藤堂澄人に近づこうとしているのだと確信を深めた。