「男に『できるのか』なんて聞くのは危険だって分かってる?」
「どうして?」
九条結衣は分かっていながら聞き返した。
そう言った途端、腰に回された腕の力が強まり、耳元で藤堂澄人の声が響いた。「なぜなら、お前の男はいつでもできるかどうか証明したくなるからだ」
言い終わるや否や、結衣は彼に抱えられて洗面所へと連れて行かれた。
10分後、結衣は鏡に映る新しいヘアスタイルを見つめていた。この腕前は美容室のトニー先生にも引けを取らないほどで、結衣の驚きは隠しようもなかった。
鏡越しに振り返って目の前に立つ男を見つめ、信じられない様子で言った。「美容師に転職するつもり?」
藤堂澄人は彼女の冗談に気を悪くすることもなく、ただ彼女の腰に両手を回して言った。
「お前が娘を産むって約束してくれてから、ネットで女の子のヘアアレンジの講座を全部勉強したんだ。将来うちの娘をかわいく着飾ってやるためにな」
結衣は「……」
娘をお姫様のように着飾るなんて、それは母親の仕事じゃないの?と言いたかった。
でも自分の不器用な手つきで編んだヘアスタイルを思い出すと、藤堂島主の腕前には及ばないだろうと思い直し、その言葉を飲み込んだ。
まだ生まれてもいない伝説の娘がこんな待遇を受けられるなんて、結衣は思わず羨ましくなった。
藤堂澄人は自分の妻の繊細な美しさを見つめ、どんな表情も喉が締め付けられるほど美しかった。
「本当に綺麗だ。したく...」
瞳に光を宿らせながら、結衣は即座に理解し、手で彼の口を塞いだ。「考えるのも禁止」
「お前...」
「宴会が始まるわ。行きましょう」
言い終わると、後ろの「恨み屋」を待たずに洗面所を出て行った。
藤堂澄人は心の中で恨めしく思いながらも、我慢するしかなく、妻の後ろについて恨み屋のように出て行った。
高橋家が帰ってしばらくすると、宴会が始まった。
宴席では、みんなが料理を楽しみながら談笑し、とても賑やかだった。
その間、藤堂澄人は妻がある方向をじっと見つめているのに気づき、好奇心に駆られて同じ方向を見た。すると、彼女が義母の方向を見ていることが分かった。
「なぜ義母をそんなに見つめているんだ?」
藤堂澄人は好奇心を抑えきれずに尋ねた。