857.歌手のあなたに、私の前で何の面目があるの

次の瞬間、小林静香の顔から笑みが消え、優しい表情に断固とした威厳が加わった。「小林先生」という言葉には皮肉が滲み出ていた。

高橋洵と高橋夕の態度を見れば、全てが明らかだった。

高橋家の娘が九条お嬢様を陥れようとしたことは、その顔に明白に書かれていた。

最初は監視カメラがないと思って人を陥れようとしたのに、今は監視カメラを確認すると聞いて震え上がっている。

なんとも面白い一家だこと。

娘が他人に押しつけても相手にされないだけでなく、こんな下劣な手段で人を陥れようとして、結局は自分の首を絞めることになった。

さらに重要なのは、200円程度の品で見栄を張ろうとしたことだ。

これで、人々の高橋洵に対するわずかな好感も反感と軽蔑に変わり、この一家と関わることさえ恥ずかしく感じるようになった。

藤堂澄人が通報してからすぐに、制服を着た警察官が数人、小林家の門をくぐってきた。

「通報を受けましたが、何があったのでしょうか?」

警察官が到着すると同時に、小林将暉も上階からパソコンを持って降りてきた。パソコンの接続部にはUSBメモリが差し込まれていた。

高橋洵の瞳孔が激しく収縮し、高橋夕の顔から血の気が引いた。彼女は高橋洵の手を掴み、動揺した表情で助けを求めるような目で見つめた。

高橋洵は怒りと心配で胸が張り裂けそうだったが、この状況では媚びを売るしかなく、小林静香に頭を下げて言った:

「小林さん、これは子供同士の戯れです。今回は老爺の誕生日でもありますし、警察官の方々にご迷惑をおかけするのは避けたいと思います。私の顔を立てていただけませんでしょうか?」

高橋洵のこの言葉は、高橋夕が意図的に九条結衣を陥れようとしたことを認めたも同然で、もはや監視カメラを見る必要もなくなった。

見なければ認めるだけでまだ体面は保てるが、高橋夕の卑劣な行為を皆に見られれば、面目も体面も丸潰れになってしまう。

小林静香は冷ややかな目で高橋洵を見つめ、嘲るように言った:「歌手風情が、私の前で何の面子があるというの?恥知らずな真似をしておいて、まだ面子が惜しいの?」

九条結衣は母がこれほど人を言い負かすのを見るのは初めてで、あの「歌手風情」という言葉は、まるで竜野健二のツンデレそのものだった。

母がこんなに意地悪だったなんて知らなかった。