881.新展開

最後、九条結衣が説得を重ねて、ようやく藤堂澄人を会社に戻らせることができた。

在宅勤務でも仕事はできるが、やはり会社の各部門の責任者たちに不必要な手間をかけ、効率に影響を及ぼしてしまう。

藤堂澄人は九条結衣の提案に同意したものの、様々な条件を出してきた。

例えば、外出する時は必ず誰かが付き添うこと。買い物に行く時は、メイドを連れて行くか、彼に電話して一緒に行くかのどちらかにすること。

結局、九条結衣は頭を抱えながらも全ての条件に同意し、藤堂澄人はようやく満足して、松本裕司から渡された大量の書類を抱えて会社へ向かった。

奥様が第二子を妊娠してから、藤堂社長はより一層仕事に励むようになった。彼の言葉によれば、一生懸命働いてお金を稼ぐことで、妻と子供たちに良い暮らしをさせてあげられるのだという。

現在の彼の資産があれば、サッカーチーム分の子供たちを何世代にもわたって贅沢に養えるほどだというのに。

それでも彼は毎日きっちりと帰宅して、妻と子供と過ごす時間を作っていた。

妊婦の九条結衣よりも、父親である藤堂澄人の方が気を遣っているほどだった。

毎日定時に帰宅するだけでなく、暇があれば『理想の妊婦になるには』という妊婦向けの本を夢中で読んでいて、その本を丸ごと飲み込んでしまいそうなほどだった。

九条結衣は口角を引きつらせながら、今妊娠しているのは藤堂島主で、自分ではないのではないかと疑いたくなるほどだった。

この日、藤堂澄人は手元の仕事を終えて妻子のもとへ帰ろうとしていたところ、松本裕司が急ぎ足でノックして入ってきた。

「社長、かつての藤堂さんのパイロットを探していた者からの報告書です。」

松本裕司の言う「藤堂さん」とは、藤堂澄人の父親、藤堂仁のことだった。

当時、藤堂仁の飛行機は東南アジアから帰国する途中、突然進路を変更してオーストラリアへ向かい、太平洋上で墜落した。

藤堂澄人は藤堂グループの指揮を執ってから、当時の事件を改めて調査し始め、徐々に不審な点を見つけ出していた。

例えば、藤堂仁の飛行機事故は事故ではなく、人為的なものだったということ。

そして当時、その飛行機のブラックボックスとパイロットは共に行方不明となっていた。