906.あの女に吐き気を催した

そのため、黒崎芳美と藤堂澄人が似ているように見える人がいても、彼女が藤堂澄人の母親だと本当に確信する人はいなかった。

「結衣、大丈夫?」

夏川雫は今、少し自責の念に駆られていた。彼女は、もし結衣をスイーツを食べに連れ出さなかったら、こんな不愉快な人たちに会うこともなく、すでに最悪だった気分がさらに悪くなることもなかったのではないかと感じていた。

九条結衣は疲れた眉間を摘んで、首を振りながら言った。「大丈夫よ、ただあの女に吐き気を催しただけ。」

彼女は島主のことを心配していた。幼い頃には母親の愛情を受けられず、大人になってからは、あの老いぼれの悪女に死を願われ、財産を分けてもらおうとされている。

どうしてこんなに運が悪いのか、黒崎芳美のような極悪非道な実母に出会ってしまうなんて?

彼女には想像できた。もし藤堂澄人が全財産を彼女の名義に移していなかったら、黒崎芳美というあの老いぼれの悪女が遺産を求めて騒ぎ出すだろうということを。

夏川雫は九条結衣が言う「あの女」が誰なのかを知っていた。

九条結衣だけでなく、彼女のような部外者でさえ、黒崎芳美に吐き気を催すほど嫌悪感を覚えていた。

今では藤堂澄人が財産を全て結衣に譲ったことを幸いに思っている。そうでなければ、今の結衣は藤堂グループの悪意を持った人々に対応するだけでなく、黒崎芳美のような極悪人にも対応しなければならなかっただろう。

しかも、黒崎芳美の背後には、さらに二人の厚かましい変人が控えているのだ。

「先に家まで送るわ。ゆっくり休んで、藤堂グループのことばかり考えないで、自分の体も大切にしないとね。」

夏川雫は心配そうに注意を促した。

「安心して、ちゃんと自分の体は大切にするわ。」

九条結衣が家に帰ると、使用人が小林静香が来ていると伝えた。

「ママ。」

「結衣。」

小林静香は、厚いファンデーションの下でも隠しきれない娘の疲れた顔を見て、心配そうに眉をひそめた。

「ママ、どうしてここに?」

「こんな大きな事が起きたのに、もっと早く来るべきだったわ。ただ、この数日は会社の用事を処理していて遅れてしまって、今日やっと来られたの。」

小林静香は九条結衣の手首を掴んだ。もともと細かった手首は、この数日でさらに骨ばかりになっていた。