九条結衣は手に持った書類を握りしめた。この中の金額は、確かに以前九条グループの株式を売却して得たものだった。
本来はこの資金を全て誠和の技術開発に投資するつもりだった。
今日の午後、彼女はこの資金を動かして、まず藤堂グループを手中に収めようと考えていたが、どう切り出せばいいのか分からなかった。
結果として、母が自ら彼女を訪ねてきて、融資計画までこんなに詳細に作ってくれた。もう彼女が頭を悩ませる必要はなかった。
「ママ」
彼女は目が熱くなり、小林静香の胸に顔を埋めた。
人前で泣くのは嫌だった。他人を自分と一緒に不幸にしたくなかったが、今は抑えきれなかった。
瞬く間に涙が目を潤した。
小林静香は彼女を抱きしめ、子供をあやすように背中をさすりながら言った:
「ママはお金持ちじゃないけど、このお金はあなたのものよ。誠和もあなたのもの。好きなように使っていいの。ママは口出ししないわ。ママに手伝えることがあったら、遠慮なく言ってね。恥ずかしがることないわ。ママにはあなた一人しか娘がいないんだから、あなたを助けないで誰を助けるの」
九条結衣は母の胸の中で静かに頷いた。しばらくして、小林静香は彼女の声を聞いた:
「前は、ママが誰かと再婚して、私に弟や妹を作ってくれたらいいなって思ってたけど、今はもういいの。ママには私一人を可愛がってほしい」
小林静香は娘のこの子供っぽい言葉に一瞬戸惑い、その後、冗談めかして彼女の背中を軽く叩いた。
「ママはもう孫のおばあちゃんになるような年齢なのよ。どこで弟や妹を作れるっていうの。これ以上ママをからかったら、もう面倒見ないわよ」
九条結衣はまだ母の胸に顔を埋めたまま、手で目尻の涙を優しく拭い、小声で言った:
「ママ、石川教授のことどう思う?」
「石川教授?石川誠?」
小林静香は不思議そうな顔で九条結衣を見つめた。「急に彼の話をするのはどうして?」
九条結衣は母の胸から顔を上げ、少し躊躇った後、唇を噛んで、小声で言い出した:
「ママ、石川教授がママのことを好きだってことに気付いてないの?」
言葉が終わるや否や、頭を小林静香にぐいと突かれた。