899.彼女の心は鉄でできているのか

彼女が最も無力で、最も助けを必要としていた時、そばにいて心配してくれ、慰めてくれる人がいた。

この頃、九条結衣はとても辛い日々を過ごしていた。周りの人に心配をかけたくないため、いつも笑顔を装っていた。

顔の疲れは化粧で隠すしかなく、誰にも気付かれたくなかった。

毎晩眠れず、目を閉じると藤堂澄人が橋から海に落ちていく光景が頭から離れなかった。

その胸が引き裂かれるような痛みは、静かな夜にさらに増幅され、もう眠ることすら怖くなった。

大奥様の容態は日に日に悪化していった。見舞いに行くたびに笑顔を装い、病状に影響が出ないよう気を遣った。

大奥様の症状は心の病が大きかった。藤堂澄人が生きて帰ってこない限り、大奥様もすぐに持ちこたえられなくなるのではないかと心配だった。

しばらく沈黙した後、彼女は夏川雫に微笑んで言った。「そう言ってくれてありがとう」

木村富子というやっかいな女に気分を害され、二人はデザートもほとんど手をつけず、少し食べただけで帰ろうとした。しかし、ショッピングモールを出る時、結衣が会いたくない人物とまた出くわしてしまった。

黒崎芳美は結衣を見ても、息子の生死が不明な状況にもかかわらず、悲しみや落ち込みの色を見せるどころか、結衣の顔に化粧をしても隠しきれない疲れを見て、むしろ意地悪そうに眉を上げた。

結衣は黒崎芳美のその態度を見て、表情を冷たくした。

息子の生死が不明な状況でも、なおも人の不幸を喜べるこの女の心がどれほど冷酷なのか、理解できなかった。

傍らの夏川雫も、黒崎芳美のその表情を見て呆れ果てた。

藤堂澄人はこの女が拾ってきた子供なのか、心は鉄でできているのか。

こんな時に、どうして結衣を嘲笑うことができるのだろうか。

今日は暦を見ずに出かけたせいか、こんなに短時間で二度も厄介な人物に出会うとは。しかも一人よりも一人と性質が悪く、一人よりも一人と常識外れだった。

夏川雫はこんな不愉快な相手と結衣を対面させたくなかったので、すぐに結衣の手を引いて立ち去ろうとした。

黒崎芳美は彼女を止めなかったが、結衣がショッピングモールを出る時、背後から声をかけた。

「今日、藤堂グループの田中会長が私を訪ねてきて、藤堂グループの株式10パーセントを売るよう求めてきたわ」