940.彼には自分の判断がある

さすが七年も彼のそばにいた人だけあって、よく考えているな。余計なことを言って間違えるのを恐れているようだ。

「九条結衣はどうなんだ?あの件について、彼女は何と言っている?」

奥様ですか?彼女は手強いですよ。社長と何も争わず、ただ自分がやっていないと言うだけで、社長の判断に任せているんです。

松本裕司がそう言うと、藤堂澄人は再び言葉を失った。

「ふん!なかなかの気性だな!」

藤堂澄人は冷ややかに笑い、横に真面目な顔で立っている松本裕司を冷たい目で見て言った。「そう簡単に信じられるというのか?」

松本裕司:「……」

信じていなければ、どうして奥様と再婚できたのですか?どうして全財産を彼女に渡せたのですか?

藤堂澄人は彼の言いようのない表情を見て、自分の質問が余計だったことを悟った。

もし本当に当時の九条結衣が自分を計算づくで利用したと疑い続けていたなら、どうして再婚できただろうか。そして愚かにも全財産を彼女に渡すことができただろうか?

たとえ本当の愛があったとしても、愛し合いながら傷つけ合うはずだろう?

どうして彼女への記憶を失っているのに、彼女に対して怒ることができないのだろう。

彼女が悲しむ姿を見ると心が痛み、彼女が自分の前でこんなにも自由に振る舞うのを見るのが、むしろ楽しいとさえ感じる。

しかし、ここまで考えて藤堂澄人は理解した。

彼の脳裏にあるこの記憶の断片自体が、問題を含んでいるのだと。

つまり——

記憶喪失の前も後も、当時の事件は本当には解決していなかったのだ。

彼が藤堂グループをここまでの地位に導けたということは、彼が愚か者ではないことを示している。簡単には九条結衣を信じないはずだ。しかし一度信じたということは、本当に九条結衣の仕業ではなかったということだ。

木村靖子については……

彼女に対する唯一の印象は脳裏にあるその断片だけで、他には何の感情もない。

むしろ、いわゆる命の恩さえも、特別な感謝の念を感じない。

つまり、木村靖子は彼にとって、どうでもいい存在なのだ。

しかし、この事件が、記憶喪失前の彼が九条結衣と無関係だと信じていたのなら、どうして記憶を失っても脳裏に深く刻まれているのだろうか。

これ自体が大きな問題だ。