しかし、彼女と一緒にいると、なぜか楽しく、リラックスした気持ちになるのだった。
朝はまだ彼女を警戒していたのに、今は思わず彼女に近づきたくなってしまう。
人の感覚は時として記憶よりも真実を語る。直感が彼に告げていた。この女性は自分が認識しているような人物ではないと。
それに、自分は以前にも似たような愚かな行動をして、危うく命を落としかけたような気がしていた。
そう考えながら、藤堂澄人は九条結衣を見つめる目に、かすかな諦めの色が浮かんだ。
目の前の時限爆弾を刺激しないようにと、藤堂澄人は大人しく食卓に座り、食器を手に取って食べ始めた。
九条結衣は彼が「大人しく」している様子を見て、唇の端にそっと小さな弧を描いた。
今の彼にとって、自分は他人同然なのだ。
記憶は失われても、性格は生まれつきのもの。彼女は自分がこんなにも冷たく当たっているのに、彼が怒るどころか、こんなにも大人しくしているとは思わなかった。