黒崎芳美は藤堂澄人の死亡の知らせが早く届くことを願っていた。そうすれば息子の遺産を分けてもらえるからだ。
田中真斗は藤堂澄人を見て、この人は少し可哀想だと思った。実の父は亡くなり、実の母は彼の遺産だけを狙っているのだから。
その時の藤堂澄人は、自分より劣る人物に同情されているなんて知る由もなかった。
黒崎芳美という女については、九条結衣からある程度の情報を得ていた。
彼はその女に対して一片の記憶も親近感も持っていなかった。ただ実の母だということを知っているだけで、何の感情も抱いていなかった。
記憶がある時期には、その女に対して嫌悪感すら抱いていたが、今では、彼にとってその女は、完全に見下している他人でしかなかった。
黒崎芳美の他の常軌を逸した行為について、九条結衣は彼に話していなかった。だからその女が以前、自分の妻を他の男と寝るように仕向けようとしたことなど知るはずもなく、そうでなければ、単なる他人として扱うだけでは済まなかっただろう。