木村靖子という人は社長のために命を投げ出すような人には見えなかったものの、あの時は確かに殺されそうなほど殴られていて、演技の要素は全くなかった。
そう考えると、松本裕司はすぐに九条結衣の言葉の意味を理解した。
「奥様、自分を餌にしないと社長を騙せないということですか?」
九条結衣は頷いた。「あなたの社長は馬鹿じゃないわ。あの時、木村靖子が命を賭けなければ、あなたの社長を騙せたと思う?」
「確かにリスクの高いやり方だけど、藤堂グループの医療チームがいれば、死なない限り助かるし、その後澄人から得られる見返りは、命を賭けるだけの価値があったのよ」
九条結衣は呆然とする松本裕司を見て笑った。「私は少し陰気な性格だから、疑わしい人は悪い方に考えてしまうの」
松本裕司は慌てて首を振った。「いいえ、奥様のお考えはごもっともです」